JR東日本常磐線勿来(なこそ)駅の改札を出ると一体の騎馬像が目に飛び込んできます。鎌倉幕府を開いた源頼朝や、室町幕府を開いた足利尊氏の祖先である源義家(八幡太郎義家)像です。義家が「吹く風を勿来の関と思へども道もせに散る山桜かな」と詠んだように、春になれば山桜やソメイヨシノが咲き乱れる長閑(とどか)な土地です。
認定こども園なこそ幼稚園がある、ここ福島県いわき市勿来町でも、2011年3月11日14時46分に震度6強の揺れが観測されました。地震とこれに伴う原子力発電所の事故による、東日本大震災の発生です。周辺に甚大な被害が出ている中、園長の中野育正先生は「こんな時だからこそ」とおっしゃり、予定通り職員研修会を実施されました。
なこそ幼稚園のお子さんたちは、日頃から心を育む漢字絵本や「日本の美しい 言葉と作法」の音読が大好きで、「日課活動」として定着しています。それ以前から、卒園式で中江藤樹の「父母の恩徳」や河井醉茗の「ゆずり葉」、昭憲皇太后の「金剛石」を朗誦する伝統もあります。
今年15回目を迎える「幼児からの『音読コンクール』」<団体の部>にも毎年全園児で参加し、遂に昨年は3学年揃って優秀賞金賞を受賞されました。初めて担任を持たれる若い先生方も積極的に指導に当たり、先生と子供たちが一丸となって取り組まれています。週に30分程は学年全体で練習する時間を設け、心を込めて、きれいな声で音読することを大切にしていらっしゃいます。日々練習に励む子供たちには、「姿勢がかっこいいね」「きれいな声で上手に読めたね」「ぴったりと息が合いましたね」など、できる限り具体的な言葉で褒めるように心掛けているそうです。
教育理念は「つよいからだ つよいこころ」です。「健康な体とたくましい精神力」「自ら決断し、ものごとを柔軟に考える力」「相手のことを思いやることのできる心」――これらの力や心を育てて、未来に羽ばたく翼を作り、歩みゆく道に立ちふさがるどんな困難にも立ち向かうことのできる、「生きる力」を育くむために、様々な活動に取り組んでいらっしゃいます。
先日は、福島第一原発事故で全町民が避難を強いられた楢葉町に年長児62名が訪ね、2017年に再開した楢葉町立あおぞらこども園の園児の皆さんと一緒に運動したり、お弁当を食べたりして交流。楽しいひと時を過ごされたそうです。東日本大震災後の国勢調査では人口減少率が87.3パーセントと突出して高かった楢葉町にも、子供たちの笑い声が飛び交えば再び活気が蘇ることでしょう。