今回訪れた荘島幼稚園は、福岡県南部、久留米市の中心部に立地しています。この地は、名君・上杉鷹山の師、細井平洲の高弟で儒者の樺島石梁や、幕末の勤皇志士・真木和泉などの先哲をはじめ、近代洋画界の巨匠・坂本繁二郎、青木繁など多数の偉人を輩出しています。
「私たちは荘島幼稚園の良い子どもです。大きくなったら、きっと良いことをする人になります」
昭和25年の創立以来、園児たちはこの誓いの言葉を毎朝唱え続けています。
創立者は、現園長である堤孝雄先生の祖父、堤学翁先生。戦争で焼け野原になった久留米の街を見て、再びこの戦禍を繰り返すことなく、平和な世の中を構築することが、尊い命を捧げた方々への恩返しである。そのために、幼い子どもたちに大乗仏教の教えを伝え、立派な人財を育て、清らかな社会を構築していきたいと思われました。
そして終戦から5年後、再建した無量寺の本堂で、幼い子どもたちへの教育を始められたのです。それが荘島幼稚園の原点です。
それから月日が流れ、平成5年秋、堤孝雄先生が脳障害児療育の先駆者、グレン・ドーマン博士と漢字教育の石井勲先生という偉大な二人の先達に、ほぼ同じ時期に出会われました。当時、堤先生は多動傾向のある発達障害児への対応に悩まれていました。お二人の先生から脳発達の原理と、幼児の持つ限りない可能性の話をお聴きになり、感奮興起され「漢字を教えるのではなく、漢字で教育する」石井方式漢字教育を導入されたところ、幼児たちの成長発達はめざましく、今に至っているそうです。
また、日本人の生活様式が西洋化していく中、身につける機会を失いがちな美しい日本の所作を子どもたちに身につけてほしいという願いから、日本舞踊の師範に直接、園児たちの指導をしていただいています。指の先にまで細やかな神経を使い、美しい身のこなしで日舞を踊る園児の姿は凛として輝いており、日本の精神文化の奥深さを子どもたちは身体全体で感じ取っているようです。また、教室から聞こえてくる園児たちの美しい歌声にも圧倒されます。聞けば、独自の頭声発声レッスンや音感教育、歌唱指導を日々積み重ねておられるとのこと。
「将来の日本を背負う有為な人財を育て、より良い未来を築いていくことが、焦土と化した久留米の街に荘島幼稚園の礎を築いた初代園長の願いに応えることです」
堤園長の言葉をお聴きし、多くの偉人を輩出した久留米の地から、未来を背負って立つ傑物が再び巣立っていくことを確信して、荘島幼稚園を後にしました。