日田市は大分県の西部にあり、福岡県と熊本県に隣接した盆地とその周辺山地からなる市です。江戸時代、幕府の直轄領であった日田の地に、儒学者で教育者・漢詩人でもあった広瀬淡窓が「咸宜園(かんぎえん)」という私塾を開き、多くの塾生と寝食を共にし、教育に打ち込みました。門下生の出身地は全国各地に及び、蘭学者の高野長英、軍政家の大村益次郎など大勢の歴史上の著名人がここで学びました。
そのような教育の土台が根づく日田に、日隈(ひのくま)こども園はあります。同園は、ひかり保育園を運営する社会福祉法人「地の塩会」が受託した、日田市第1号の民営化園です。平成11年に立腰教育を、12年に石井方式漢字教育を取り入れました。心身ともにたくましく、就学前には自分のことは自分でできるようになることを目指し、日々の教育・保育を行っています。
石井方式は、漢字を通して豊かな言葉を養い、知性や感性を養うことを目的として導入。毎日繰り返すことで、子供たちには良い習慣が身についています。目と耳からの刺激でたくさんの言葉が脳に吸収されることにより内言語が増え、国語力やコミュニケーション力が自然と養われています。
毎朝の「10分でできる絵本指導」(言葉遊びの時間)では、0歳児から年長児までが、きびきびとした明るく元気な声を響かせ、1日の園生活をスタートします。この言葉遊びを通して子供たちがしっかりと話を聞き、何事にも意欲をもって取り組めるようになった姿を保護者にご覧いただくと、この時間の大切さを理解してくださり、時間に間に合うよう登園時刻も早くなったそうです。今では家庭と園とが思いを共有して取り組んでいます。
同園では年長児になると、友達と助け合い思いやりをもって学び合うことが詠まれた広瀬淡窓の漢詩「桂林荘雑詠(けいりんそうざつえい) 示諸生(しょせいにしめす)」を、詩吟を通して学んでいます。詩吟は熱心に取り組まれ、指導に来られる専門の先生が、子供たちの集中力と覚える速さに大変驚かれたそうです。園児たちは、毎年2月23日の「咸宜園の日」(日田市制定)記念イベントなどで「桂林荘―」を披露しています。昨年は「淡窓伝光霊流日田詩道会 45周年記念大会」に招待され、そこで披露する機会もありました(写真)。
「この2年間は毎月、登龍館から講師を派遣していただき、午前中は園児への指導、午後は職員研修と、資質向上に努めています。園児が言葉遊びの時間を楽しみに取り組めるよう、職員自らが学びを深め取り組んでいきたいと思っています」と、園長の壁村仁子先生は穏やかに語ってくださいました。